
1. 逃げ場の無い重圧。二つの巨大組織に挟まれたデッドロックからのスタート
「ノーベル賞」という世界で最も権威ある名前を冠した国際会議。その日本初開催という歴史的な場面において、ビジュアル設計の全権を委託されたのは大きな名誉であると同時に、これまでにない巨大な挑戦でもありました。
立ちはだかった壁は、「主催者両陣営の承認」という高すぎるハードルです。一方は主催国の伝統的なブランドイメージの継承を譲らず、もう一方は日本開催としての革新性と独自性を求める。
10数案の提案が暗礁に乗り上げる中、現場には「絶対に失敗できない」という重苦しい空気が流れていました。そこで私は確信しました。これは「絵」の問題ではない。情報の「棚卸し」ができていないという、構造の問題なのだと。
2. なぜ10数案の「デザイン」を提案しても、答えに辿り着けなかったのか?
通常、デザインを数案も出せば、どこかに着地点が見えるものです。しかし、このプロジェクトでは違いました。
当初、私たちは求められる要素をすべて盛り込み、表現の切り口を変えた10案以上のビジュアルを提案しました。しかし、どれだけ「美しい絵」を提示しても、主催者両陣営の足並みが揃うことはありませんでした。

- 海外本部側の主張: 「ノーベル賞の重みと、過去の国際会議との一貫性が足りない。もっとクラシックであるべきだ」
- 日本側の主張: 「東京で開催するインパクトが弱い。もっと現代的で、日本独自の先進性を出すべきだ」
一方が頷けば、もう一方が首を振る。提案を重ねるほどに議論は「好みの問題」や「細かな修正の繰り返し」という迷宮に入り込み、本質的な正解から遠ざかっていく。
この時、私は痛感しました。情報を積み上げるだけの「デザイン提案」では、このデッドロック(行き止まり)は突破できない。 今必要なのは、新しい絵を描くことではなく、散らかった思考を一度すべて解体し、全員が納得できる「共通の土台」を再設計することだと。
3. 「何を足すか」ではなく「何を認めるか」。合意形成のための再設計(情報の棚卸し)。
10数案のボツを経て、私は一度デザインソフトを閉じました。そして、両陣営から出された膨大な「要望」という名のノイズをすべて机に並べ、**情報の棚卸し(デトックス)**を開始しました。
そこで見えてきたのは、双方が100%合意できる「たった一つの事実」でした。 それは、このイベントの本質が「答えを提示すること」ではなく、**「未知の領域へと続く、終わりのない対話(ダイアログ)」**そのものであるという文脈です。
伝統の継承と、未来への革新。これらを対立する要素として捉えるのではなく、一つの**「深化し続ける知性の構造」**として統合する。これが私の導き出した設計図でした。
私は新しいデザイン案の代わりに、一つの**「シンボル(構造体)」**を提案しました。 それは、深淵へと続くようでもあり、高みへと昇るようでもある「螺旋(らせん)」の構図です。
「デザインを作る」ことをやめ、「イベントの精神性を象徴する『概念の構造』を提示する」。
この「情報の棚卸し」による再設計が、長く続いたデッドロックを瞬時に打ち破りました。この螺旋階段という、知性の深まりを象徴するビジュアルに合意が取れた瞬間、それまで対立していた両陣営の視線は、初めて同じ方向を向いたのです。
伝統(歴史) × 探求(未来) = 螺旋(知性の深化)
■ 強固な「設計図」があれば、多媒体への展開は一気に加速する。
メインビジュアルという「知性の核」が決まった瞬間、プロジェクトの空気は一変しました。羅針盤を手に入れたかのように、すべての広報ツールが迷いなく、一つの確固たるブランドとして整い始めたのです。
しかし、ここからが「設計士」としての真の腕の見せ所でした。ポスター、当日配布用のパンフレット、そして数千人が手にするIDカード。それぞれの媒体には、果たすべき「機能」が異なるからです。
- 情報の優先順位(ヒエラルキー)の徹底: ポスターでは「螺旋のインパクト」で直感的に知的好奇心を刺激し、パンフレットでは登壇者(ノーベル賞受賞者)の顔ぶれとタイムスケジュールを、ストレスなく読み取れる構造に整理。
- 視認性と知性の両立: 国際会議にふさわしい「信頼感」をベースにしながら、一般参加者が気後れすることなく「自分たちのためのシンポジウムである」と直感できるよう、余白とタイポグラフィのバランスをミリ単位で調整。
- 一貫性の「設計」: どのツールを手に取っても、同じ「知の探求」という空気感に包まれるよう、トーン&マナーを徹底的に管理。
「ただ作る」のではなく、「使い手の体験を設計する」。 この一貫した構造設計があったからこそ、短期間での多媒体展開においても、ブランドの質を一切落とすことなく完遂することができました。
■ 「これこそが私たちが求めていたものだ」
国際シンポジウムが成功裏に終わり、現在もたのツクが「設計パートナー」として信頼されていることへの言及。
両組織が満場一致で承認した時の様子。
■ あなたのプロジェクトも「情報のデトックス」から始めませんか?
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